憧れの暮らし

あー。
すっかり放置してたけど、
火災保険料を支払わなくちゃ。
２年の契約更新だった。

ここ10年のあたしってさ。
３年おきくらいで引っ越ししてた。
大阪→岡山→大阪→福岡→大阪
まぁまぁ動いたほう。

新しい場所や環境（土地）に移ることに
あまりストレスを感じない、
むしろ変えていきたいと思ってたりする。
引っ越しは、もう癖というか刺激物。

ただまぁ、さ。
あたしの気持ちのどこかで、
転勤するのとかは、
もういいかなと思ってたりしてて。
次、転勤の話がきたら悩む。
あたしはどんな返事をするのか。

いや、いや。
聞いて欲しいのはそんなことじゃなくて。

根っからある刺激物を欲し始めた。
いわゆる環境を変えるということ。
分かりやすく言えば引っ越し。
もっと言えば、長屋に引っ越したい。
欲を言えば、駅チカでリノベ済で。
家賃は６万円くらいで。

もう、先に答え言うたるわ。
あるわけない。

ちょっと興味本位で探してみたけど。
駅まで徒歩２５分とか、
リノベ済で小洒落て家賃１０万越え。
無理やてそんなん。
わがままもいっちょ前に出てくる。
完全に憧れなんやけど。

あーしは静かに地味に暮らしたい。
そんなに小洒落てなくてもいいの。
でも、冬は寒いかしら？
夏は日当たり悪いと暗いだろうな。

妄想は止まらない。
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長屋３年目、
梅雨はまだかと初夏も感じる６月。
貰いものでやたらメッセージ性の強い
派手なTシャツとひざ下までのステテコが
似合うようになったあたし。

寝間着も部屋着も大して差のない恰好。
起きたら、毎朝、植木鉢に如雨露で水やりをする。
いつの間にか鉢植えのイシャイラズ(アロエ)が
化け物のようにゴツく伸びてちょっと困惑気味。

家には三毛猫が住みつき、遠慮なく入ってくる。
飼い犬のマサオ(雑種)は三毛猫をよく思っていない。
でも、ケンカしても怒られるのはマサオなので
あまり視野に入れないようにして黙ってた。

ひととおり水やりが終わる。
水穴の少ない如雨露はやっぱ面倒だわと、
毎朝同じことを思いながら投げ片付けて
まったく照のあたらない長屋に戻る。
床が冷たくて気持ちいいと素足の指が喜んだ。

おなか空いたな。
使い切れてなかった玉子でも焼いて食べるか。
ちょっと佃煮っぽいのも食べたい、
今度、岩海苔を思い出したら買っておこう。

パンツのゴム一本しか入ってないステテコ、
このあいだゴムを新しく取り替えたら弾力が効きすぎて、
キツいというよりゴム一本が腹に食い込んで痒い。
ぼりぼり掻きながら、ほぼ同じ時間に呼ぶ。
「マサオー、ごはんやでぇーー」

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ほら。
結構出来上がってんのよ。
マラソンとかジョギングとか
いっこも思いつかないけどね。

どっかにないか。
ええ長屋。
根気よく探さないと無理っぽい。
だから火災保険は明日払っておく。



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